山田守について
はじめに
当社の創設者である山田守は、1966年(昭和41)年に72年の生涯を終えました。その間に数多くの作品を残し、今も多く現存し、愛されています。そこで山田守がひたむきに建築と向き合った生涯について、3期に分けて紐解いていきたいと思います。
第1期 1920~1930(大正9年~昭和5年)
1920(大正9)年に東京帝国大学建築学科を卒業し、逓信省経理局営繕課に入省してから欧米へ視察に向かう時期です。
この頃の代表作品は1925(大正14)年の東京中央電信局です。その他にも全国的に数多くの電話局や郵便局を設計しています。
また、1923(大正12)年の関東大震災によって設けられた復興院(後の復興局)においては、橋梁課の嘱託として橋等のデザインにも携わっており、なかでも御茶ノ水駅近くにある聖橋は山田守の色彩が最も強く表れたものとして知られています。
1925 東京中央電信局
1927 聖橋
第2期 1930~1945(昭和5年~20年)
1929~30年の欧米視察を通じて受けた影響を色濃く反映させたモダニズム建築が多い時期です。特に1932(昭和7)年に完成した荻窪郵便局や1938(昭和13)年に完成した東京逓信病院では、その成果をうかがい知ることができます。
逓信省から派遣されて行った視察では、まずはベルリンを足掛かりに、第二回CIAMに参加するなどしてメンデルゾーンやグロピウス、コルビュジェなど多くの建築家と交流し、その後トルコ・イタリア・南ドイツ・パリ・ロンドン・オランダなどのヨーロッパの主要都市も巡り数多くの建築を見ています。その後1か月ほどアメリカに滞在して帰国しました。
ヨーロッパでは、スイスやドイツのSiedlung(ジードルンク:集合住宅群)に力を入れて見学していたようですが、この当時日本では同潤会の青山アパートが1927(昭和2)年に完成したばかりで、不燃の中層アパートは数えるほどしかなかった時期です。将来の住宅建築の解決策として感銘を受けましたが、このチャンスを生かす機会には恵まれなかったようです。
その後、逓信関係の建物や老人ホームなども見学しており、帰国後にこの分野では力を発揮することができました。特に東京逓信病院は、これまでの病院建築に一石を投じて影響を与えたものです。
1932 荻窪郵便局電話事務室
1937 東京逓信病院
第3期 1945~1966(昭和20年~41年)
昭和20年に逓信省を退官した後に山田守建築事務所を開設して、戦争等で中断した本来の仕事である建築設計に立ち戻り、数多くの設計に携わりました。また東海大学創設時の理事として施設建設に協力し、建設工学科の主任教授も務めるなど、学生の指導教育にも力を注いでいきました。
この頃の代表的な作品には、東京厚生年金病院をはじめ、東京都水道局長沢浄水場(1957)、日本武道館(1964)や京都タワー(1964)、東海大学の関連施設(1962~1966)などがあります。
最先端の近代建築を日本に導入しただけでなく、逓信建築によって日本の建築の方向性を与え、病院建築のパイオニア&スペシャリストとして生涯の幕を閉じました。
1953 東京厚生年金病院
1957 長沢浄水場
1964 日本武道館
1964 京都タワー
年譜
1894(明治27)年
岐阜県羽島郡上中島村に生まれる
1920(大正9) 年
東京帝国大学工学部建築学科を卒業し、逓信省に入省ほどなくして東京中央電信局の設計を任せられる
1924(大正13)年
関東大震災、復興局に出向し永代橋(東京都)、万代橋(新潟県)、聖橋(東京都)などの設計に携わる
1925(大正14)年
東京中央電信局竣工
1937(昭和12)年
東京逓信病院竣工
1945(昭和20)年
逓信省を退官する
1946(昭和21)年
通信建設工業株式会社を設立する
1949(昭和24)年
通信建設会社を解散し、山田守建築事務所を設立する
1951(昭和26)年
東海大学の理事に就任し、工学部建設学科の主任教授も兼ねる
1953(昭和28)年
東京厚生年金病院竣工
1957(昭和32)年
社会保険庁業務課庁舎・東京都水道局長沢浄水場竣工
1964(昭和39)年
日本武道館・京都タワー竣工
1966(昭和41)年
死去
参考資料:山田守建築作品集刊行会『山田守建築作品集』東海大学出版会、向井覺『建築家山田守』東海大学出版会
受賞・イベント
2003(平成15)年
熊本逓信病院、東京都水道局長沢浄水場が「日本におけるDOCOMOMO100選」に選定される
2006(平成18)年
「建築家山田守展 流動するフォルムにみた合理性」(主催:日本建築学会、東海大学)
2007(平成19)年
日本武道館がBELCA賞(ロングライフ部門)を受賞
2008(平成20)年
東海大学湘南キャンパスが「日本におけるDOCOMOMO135選」に選定される
2009(平成21)年
「今に生きる山田守の建築~野田市郷土博物館 竣工50周年を迎えて~」(主催:野田市郷土博物館)
2013(平成25)年
広島逓信診療所が「日本におけるDOCOMOMO164選」に選定される
2016(平成28)年
熊本市役所花畑別館が「日本におけるDOCOMOMO197選」に選定される
2017(平成29)年
「建築家・山田守の住宅」展-没後50周年・自邸公開-(主催:「建築家・山田守の住宅」展実行委員会)
2017(平成29)年
社会保険横浜中央病院が「日本におけるDOCOMOMO208選」に選定される
2018(平成30)年
千住郵便局電話事務室が「日本におけるDOCOMOMO216選」に選定される
2021 (令和3) 年
日本武道館が「日本におけるDOCOMOMO250選」に選定される